触れてはいけないもの・・








そうそう、もうひとつ、「1Q84」を読みつつ、古い抽斗から引っ張り出した思い出がある。
やはり1984年よりもずっと前のことなんだけど、前の記事の高校時代よりは少し降って、大学4年の冬のこと。
私は教育学部ではなかったけれども、小学校教諭の免許取得のための履修もしていたので、秋には教育実習に行っていた。 お世話になった小学校と、担当していただいた先生の都合で、単位取得のための実習よりも長い期間の実習になってしまったんだけど、実習を終えて一人暮らしのアパートの部屋にいるのは、なんだか息苦しくて、特に用はないものの、ぶらりと大学に行ってみた。 当時、私が親しくしていたのは、ほとんどが地方から来ているひとたちで、自然と一人暮らしの者同士が集まっているようなかたちだった。 もう大学の四年次も終わろうかという頃だから、就職の準備やら、卒論を終えてない連中は閉じこもって原稿用紙に向かっているか、それとも冬休みのつもりでもいるのか、やはり学内には見知った顔ぶれは見つけることはできなかった。 仕方なく、学食で、ちょっと遅い昼飯を食べようと、ひとりで学食に入った。 そのとき何を食べたのかなんてことは、もう覚えていない。 たぶん、定食のAだかBだか・・、そんなところだったんだろうな。
午後の講義が始まっている時間だったので、学食は比較的空いていて、数十人が向かい合わせで座れるような広めの長机で、ひとりで飯を食べていた。 すると、どこからやってきたのか、私の後ろから、「ちょっといいですか?」と声をかけてくる者があった。 飯のどんぶりと箸を持ったまま振り向くと、男女のペアで、見たところ、1年か2年といった感じだった。 「ん? なに?」と、私は怪訝な顔つきで振り向いたんだろうな、きっと。
最初に声をかけてきたのは女のほうで、穏やかに笑っていた・・んだろうと思う。 男のほうは、ちょっと精気がないような、そこにいること自体に自信が持てないような、心細い顔つきだった・・と思う。 記憶は定かではないんだけど。
「食事中にごめんなさい、ちょっとお話してもいいですか?」と女は言う。 私はどうせ話し相手もなく、もそもそと昼飯を食ってるだけだったので、「なんでしょう?」と、とりあえずはお答えした。 サークルへの勧誘をする時期でもないし、いったいなんじゃろな?っと、不思議な感じではあったんだけどね。
「大学生活は充実していますか?」 女の口から、出てきたのはこんな質問だった。 キャンパスライフ(笑)は充実しているか、生きがいをもって、目標を持って、日々を過ごしているか、いきなり、そんな内容の質問をされてしまって、私はちょっと混乱した。 私はどんぶり飯をかきこみながら、二人の顔を見比べていたけれど、男のほうは、相変わらず、落ち着きのない目をしているだけで、口は開かない。 サークルはなにか入っているか、専攻は何かといった質問を次々に放ってくるのは、いつも女のほうで、どうやら男のほうは見習い待遇といったところか。 インストラクター女は、徐々に学内の自治会に関する話題や政治的な話に移り始めた。 学生自治会に関しては、ちょっと批判的な言葉も聞かれたので、ん~?こやつらは何者だ?という気分になってきた。 私は大学への入学と同時に、ちょいと学生会の執行部の人間との付き合いがあり、自分の大学の自治会執行部が、どういう系統のものかは熟知していた。 もう四年になって、同期入学の執行部の連中とも会って話すこともなくなってはいたけれど。
「この大学の学生会はね・・」と、インストラクター女は、どこから得た情報なのか、執行部の上層組織のことなんかも話し出した。 そっか、私を1年か2年生と思ってるのかもしれないな・・・。 それも、ただのぼんやりした、ひとりぼっちの寂しい学生っぽいと値踏みされてしまったワケだ。 私はできるだけ自分から多くを語ることを避け、インストラクター女の説明が不十分だと思わしき部分のみ、質問するように努めた。 当時、学生会執行部は左翼的といわれる政治団体の下部組織に属する人間が委員長をやっていたんだけど、主だった活動というほどのことはやってはいなかったように思う。 まぁ学生にとって有益な結果をもたらしたいくつかの成果もあげていることを私は知っていたので、批判に値するほどの材料を持ってはいなかったし、何人かのなじみの人間が執行部の内部にはいたものの、多くの学生がそうであったように、私も、彼らと深く関わることは避けてきた。 インストラクター女の説明は、どこかのテキストから拾ってきたような言葉のつなぎ合わせでできており、非常に柔軟性を欠いたものだった。 そして、寂しそうに(?)ひとりで学食で飯を食っている人間を、迷いのない、確かな支えをもった世界へと導こうと言うワケ。 
あれやこれやと聞いているうちに、あぁ、あれだな・・っと気付いてはいた。 今はもう、あまりその団体の名称を耳にすることもなくなったけど、当時は、あちらこちらの大学で勧誘を行っていることは知っていた。
のちに、アジアのそれも日本に近しい国に教祖のような存在を仰ぐこの組織は、日本における入信者を増やすために、著名人や芸能人などを取り込み、一時TVのワイドショーなどでも話題になったりはした。 また、その入信者を、教祖のいる国元へと連れてゆき、集団見合いをさせるなどということでも話題になったりした。 ま、ワイドショーネタを提供し始めたのは、私の昼飯時にやってきた二人との時間からずっと後のことになるのだけれど。 でも、学生会執行部では対立的な思想・信条をもつ組織の動きには神経を尖らせざるを得ないといった状況だったのだろう。 結局のところ、インストラクター女の勧誘は、実に生ぬるいものでしかなく、彼女の批判する共産主義的なものの考え方というのが、実に陳腐で、それを神妙な顔つきで聞いている男の顔が面白かった。 あなたの言わんとするところは、いったいなんなのかな? 学内の学生会の活動に対する問題提起をしようというのか、 それとも国際経済の中の、この国の問題をお話ししようというのか、個人の、それも精神衛生上の問題なのか、そのへんの論点を明確にしてもらわないと、お答えのしようがない・・とかなんとか、私は言ったかもしれない。 それほどに、曖昧な、ぼんやりとした話題で、簡単にひとの心は動くものではない。 漠然とした不安や寂しさに取り入って、いかにも仲間のような顔をして引きずり込む、そういうレベルの勧誘でしかなかった。
「あなたたちはここの学生なの?」と訊ねてみると、そうだという。 二人とも二年次だという。 「そっか、いいね、これからだね、二人とも」 私は、間もなくこの学内から卒業していなくなることを告げ、「せっかく大学生になったんだから、いろんなことを知るのはいい、でも、まず、自分たちがしっかり知識を身につけてからでも遅くないと思うよ」 私は二人に嫌悪感ももたなかったし、そういう勧誘をしてまわることも、上からの命令によっているのだろうから、やめろと言ったところで、どうにもなるまいと思っていた。 事実、彼らは、己に疑いを持つ余裕などないに違いないのだ。 「お邪魔しました・・」二人は私の前から立ち去り、案の定、次のターゲットを絞り込むかのように、学食のテーブルの中をさまよい歩いていった。

ノンポリなんていう言葉を、今の学生さんたちは聞いたこともないかもしれないね。 私の世代ですら、もう使ってはいなかった。 私のころのキーワードは、無気力・無関心だったのかな・・。 学内のいたるところに何らかのスローガンを大書した立て看板はあったけど、手書きで、刷毛で書く字体に見とれることはあっても、その意味するところに共感すべきものを、持ち合わせてはいないことのほうが多かった。 最近は、どんなふうに勧誘しているんだろうね。 ま、知りたくもないけど・・ でも、その組織のその後と思わしきひとから、声をかけられたことはある。 まだ2~3年前の、ほんとに最近のことなんだけど。 近所の公園の池でカワセミを見ているときだったかな? たしか、6月の下旬か7月の上旬で、カワセミは子育て中だったから、初夏だった。 子育て中のカワセミがいるときは、仕事の帰り道でも、ほんの数十分でも毎日のように見に行くので、私の顔を見知っているひとだったのかもしれないけれど、三十代くらいの男性が私の横に立っていて、じっとカワセミ親子を見ているようだった。 彼は、ジーンズにTシャツ、そしてリュックを背負っていて、ちょっと老けた学生みたいな雰囲気をもっていた。 どんなきっかけで話をしたのか、どんな話をしたのかは、忘れてしまったけど、確か、鳥の子育てについてのことを話したような・・。 んで、何度かお話をするうちに、彼は特にバードウォッチャーというワケではないと知り、それでも、野鳥の生態について、あれこれと私に尋ねてくるようになった。 そんなことが何度かあってから、再度彼に公園であったとき、実はとってもいい話をきける講座みたいなのがあるんですけど、ご一緒にいかがですか?みたいなことを言われた。 最近は年寄りをあれやこれやの方法で集めては、物を購入させるような組織も見受けられるので、何か買わせようという目的なのかとも思ったが、そうではなくて、やはり、ちょっと遠くの国へ行っちゃうかもしれないような人たちの集まりみたいなことだった。 ははぁ・・ まだあるんだなぁ~。 ぼう~っと鳥見なんぞしてると、心に隙間があるひとのように見えてしまうことがあるんだろうか・・。 まぁ、公園っていう不特定多数が、漠然と集まってくる場所には、ひとの様子を見つつ、怪しげな勧誘をしているらしき人間の姿を見かけることがある。 ベビーカーを押している若い母親ばかりを追っていく複数の女性勧誘員をみかけたこともある。 子育て中の苦労話とかに取り入って、その心の隙間に入り込むという手口なんでしょうね。 まったく、油断も隙もありゃしない。 私には興味がないので、どういう具合になっているのか推測する余地もないんだけど、韓流ブームとか、韓流アイドルだとかを見聞きすることが多くなった昨今、どこかに大きくてそれとは判別できないような不気味な影がありはしないか?と余計な心配をしてしまう。 個人だけならまだしも、この国そのものに、隙間風が吹いていて、それを利用しようと企んでいる不穏な動きがなければいいんだけど・・・。 心の隙間に吹く風は、自分の掌で抑えるからこそ面白い。 そんな一人遊びの時間には、そっと触れずにいてほしいものである。






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